盆供養

昨夜、自宅玄関前まで帰宅すると、呼び止める人があって、

「あのう、このワンちゃんどこの子が知りませんか？」と言う。

変なおっさんが、路上にしゃがみこんで茶色い犬を撫ぜている。

よく見るとごく普通の中年紳士。

黒い通勤カバンを持ち、白いワイシャツにネクタイ姿。

「駐車場の柵に首綱が引っかかって動けなくなっていました。ヒモが途中で切れているから、きっと繋がれていたのが切れて散歩に出たのでしょうね」と紳士。

「はぁ、ひょっとしたら、この先のお家の犬かもしれん」とわたし。

で、そのまま、二人で犬をその家へ連れて行った。

門柱のピンポーンボタンを押そうとしたら、内からワンワンと犬が出てきた。

「やぁ、違ったみたい。ご本尊はご在宅ですわ」とわたし。

つれづれの話では、紳士は、借り駐車場まで帰ってきて、その犬を見つけ、放置しておくわけにもいかず、切れた首綱の端をもって、犬の行くままに飼い主宅を探し、歩き回っていたらしい。

「で、ご主人のお宅はどのあたり？」とわたし。

「はぁ、だいぶ歩きましたから…。この犬、ほんとに自分の家に帰るつもりがあるのかなぁ？」と紳士。

と、ここまで昨夜を思い出しつつ書いたら、ピンポーンが鳴った。

玄関先に黒い影。

ヤヤッ、お坊さんだ。今日は我が家の盆供養の日。

でも、まだ朝９時前だよ。

いつもはお昼過ぎにお越しになるから、今年もそのつもりで朝の掃除も済ませてなかった。

マカボダラマニハンドマジンバラ…○★◇＠．ｗｗｗ．ｊｐ☆＊チーン…、

お布施、お布施、お布施、

…さて、紳士は、

「いやぁ、お疲れのところお付き合いいただいて、申し訳なかったです…」

と、言い残し、また犬の行くままに、ヒモの端を握って小走りに去って行った。

犬を連れ歩くのが不慣れな様子だった。

小腰をかがめ、犬に引っ張られてトット・トット去って行った。