まんじゅう

 

明日はかみさんの誕生日である。彼女、うん十うん歳にあいなるようである。

手前勝手というか、バカというか、わたしは自分のかみさんが還暦近くになっているなんて思ってもみなかったのである。

 

身体のあちこちが、特に背中が痒くてならんから、今日、皮膚科を受診した。

「これは死ぬまで治らんでェ、もうお前は歳やからなぁ」と医者。

「はぁ、そこを何とか…」とわたし。

「俺は関係ない。あんたのせいでこうなったんや」と医者。

「殺生な、なんとか治らんやろか？」とわたし。

「サラダ菜でも食うか？」と医者。

「はぁ？」

「チョコレートやナッツは食うな。あんなもんは食わんでも生きられる」と医者。

 

口の悪い医者だった。

すき放題、無茶苦茶言いながらの診断だ。

でも、目がぜんぜん笑ってない。怒ってない。穏やかな目だ。真剣である。

「先生、そこを何とか治して欲しい」とわたし。

「だれでも、自分が都合悪いときは、そう言いよる。お前、ちゃんと経過を報告できるか？」と医者。

「わしゃ、薬が効いたかどうか連絡を受けんと、どうしたらエエのかわからん。おまえは、どうも信用でけん」と医者。

 

人生長いことやっているが、こんな口の悪い医者にかかったのは始めてである。

「どうなんや？わしの言うとることがわからんのか？」と医者。

「わかる。わかります。しっかり薬飲んで、塗って、ほいで、洗って風呂に入る」とわたし。

「アホか、風呂に入ってどうする？」と医者。

「風呂に入るときは塗り薬を洗い落としてから入る」とわたし。

「アホか、こんな薬が皮膚から入るか！飲み薬で治すのや。わしの言うとること解るか？」と医者。

なんともはや、ガッツ・ガッツの医者だった。

皮下注射を打たれ、薬をドサッともらって帰った。

「どうせ治らんのや、薬がなくなる頃、出てこい」

とのことだった。

薬は、かまわんから、どっさり飲めとのこと。痒がってあちこち引っかくのが一番いけないらしかった。

 

注射が効いたか飲んだ薬のせいだったか、かゆみが納まったみたい。
明日のかみさん誕生日のことが気にかかる。

二人所帯だ。勤めの帰路、饅頭でも買って帰ろうかと思う。

二つだけ買うというわけには行かぬ。
かっこつけて買って、毎年この時期、饅頭を食いすぎているように思われる。