クシャミ  

 

ボルゾイ犬花子は11歳、シーズー犬ゲースケ5歳、同シーズー犬ショウスケ1歳。

わが家には、今3匹の犬が居る。この面倒見が大変だ。

花子は肉食、ゲースケは魚食(肉はまったくダメ)、ショウスケはベジタリアン。

わたしが味噌汁派で、かみさんはパン食。

毎朝、かみさんは、計5種類の朝食を作る。

 

単なる好き嫌いじゃなく、これが絶対であって、花子に魚を与えると10分と経たぬ間に嘔吐する。ゲースケに肉の場合は消化機能が麻痺し腹がつぶれる。ショウスケは肉も魚もダメで、これらを食わすと、全身に湿疹を出し肌が真っ赤になる。

わたしは、朝食がパン食だと、腹がヘナヘナで頼りなくていけないし、かみさんは、紅茶とパン以外、食う気がしないらしい。

 

この難儀な家庭にあって、ここ数日かみさんが不在である。

で、わたしが犬3匹と、わたし自身の食事を作るが、難儀極まること筆舌に尽くし難い。

誠心誠意調理にあたるも、犬共はそっぽを向いて食ってくれない。

腹が減れば食うだろうとそのまま様子をうかがうも、ショウスケは食うが、花子とゲースケは断固食わん。

腹が立って、バターの塊をメシ椀の上に乗っけたら、やっと食った。以来、クセになって、バターを入れないと食わん。マーガリンにしたら、気に入らないようだった。

 

犬たちの食事に手を取られ、なかなか自分の食事にありつけない。

ありあわせで間に合わすが、かみさんが用意していたものは、もう食いきってしまった。
昨夜は、パンを、クシャクシャ食った。

ビールを飲みながら食うパンは、ある種独特のものであって、あまり勧められたものじゃない。
ビールで冷えた腹を、焼酎の湯割りで温まろうと思ったが湯が無かった。

やかんに湯を沸かすのはめんどくさい。ポットから湯を出すと、ぬるい水が出たのである。かみさんは、疑いも無く、ポットには湯を入れおいたのであろう。それが、今は水になっておる。あれやこれやで、ぜんぜんおもしろくない。

 

わっしゃ、だからといって、犬たちに当り散らすような腐った性根は持っておらん。

常に、三匹それぞれに、平等に、愛情をそそぐよう心がけておる。

これって、“言うはやすく行なうは難し”でっせ!

なにせ、平等であるか否かは、犬たちが一方的に判断するわけでしょう。

いかに、わたしが、客観的に平等に、彼等を愛したからとて、受ける側の彼等がそう受け取らなかったらそれまでのことですよね。

で、わたしは、彼等個々の、その時々の気持ちを推し量り、随時変幻自在な愛の使い分けをせにゃならん。

三匹相互間の序列というのもあってですね、これを阻害するわけにもいかん。やっかいでっせ。

 

朝の散歩の際、お隣の奥さんが自治会設置のゴミ捨て場へ向かわれるのと、たびたび出遭いましてね、その都度、奥さんは、クスクス笑うわけですよ。

わたし、ズボンの前ホックでも開いたままなのかな?と、さりげなくズボン前を調べるも、きちっと閉まっておる。なぜ、奥さんが笑うのか久しい間、疑問だった。

やっと、先日、その原因がわかりました。かみさんが聞いてきた。

奥さんは、わたしのかみさんとの雑談のなかで、

「花ちゃんの目付きって、ご主人そっくりネ。わたし、出遭う都度、おかしくって、おかしくって!」

と言ったそうな。

そういえば、わたし、どちらかというと、花子の方により多くかかわっているみたい。

花子の目をみていたら、彼女が何を言いたいのかすぐわかる。

あぁ、そうだ!

花子のクシャミが、わたしのそれにそっくりだと、以前かみさんが言ったことがあったなぁ〜。