大　物　　

ヨシ坊と二人、旅行先の海岸でアジを釣った。

そのアジに、釣りハリを背負わせて放つと、アジが沖へどんどん走る。

剛調子の中通し竿。PE６号。大物を釣るつもりだ。

竿先がピクピク動く。しだいにピクピクが激しくなり、竿尻持って合わせのタイミングを計っている。ヨシ坊が「マダマダ！」と制する。

ギュウーンと竿がしなり、力いっぱい竿をあおった。

大物だ。リールがうなり、糸が走る。

大物は沖を悠然と何事もないかのように泳いでいる。何が釣れたかさっぱりわからん。

ソヤツは、沖を右から左へ泳ぎ、既に物陰に隠れて見えなくなったが、そのまま陸上へ揚がり、ドンドン向こうへ走るようである。

リールに糸が少なくなって、ヨシ坊が側でヤンヤ・ヤンヤ言うが、どうにもならなくて、糸が出切ってしまった。で、プッツンだ。

なんかおかしい・変だ、と思う間もなく、向こうから、おっさんが

「どいつや！おれの車にハリを仕掛けたのは！」と怒鳴る声がする。

しまった！

大急ぎで剛竿を隠し、さりげない振りを装うべくヘナヘナ竿に持ち替えた。

アジが釣れて。これを餌に大物を釣りたいが、おっさんが側でワイワイ怒鳴る。

悶々とした一夜であった。

階段下でショウスケ（３匹目のシーズー・幼犬）が、うなり声をあげながら、何やらガリガリかじっている。どうやら階段の踏み板をかじっているらしく思われる。

雨の気配がする。