イメージ３　　水中

 

イメージ・シリーズの第１話は、

艇の故障で沖へ出られぬ腹いせを、イメージ釣りに託したヤケッパチ話。

シリーズ第２話は、ミッドα波の話。

で、今回第３話は、水中イメージの話をしてみたい。

 

まずは、実録から、

クレオパトラとアントニウスが魚釣りをしたとき、クレオパトラは彼・アントニウスの釣り針に、潜水夫に命じ、塩漬けの魚を引っ掛けさせたそうだ。

わたしなら、パトラちゃんを即刻張り飛ばすところだが、彼・アント氏はまんざらでもなかったみたい。よほど惚れていたのであろう。

 

知り合いに、潜りの上手なのがいて、どこそこには、こんな大きなチヌがうじゃうじゃ泳いでいる。スズキなんぞは、水中銃で獲りほうだいだ、などと言う。

彼は、三分間は息を止めて、水中を自在に這うことができる。

わたしは、幾度も、彼が仕留めたチヌやアワビを食わされている。だから、疑いないことだ。

 

いつだったか、艇友のバグちゃんが、妙な道具を取り出して、桟橋から垂らしていた。

「よう見える、よう見える」という。

水中カメラだ。海底の映像が桟橋に座っていて観察できる。

高価なものらしいが、いまいち実用には遠いような気がした。

 

艇に、箱めがねを積んでいる。海水の綺麗な箇所なら、これで海中を見ることができる。

ナマコを見つけて捕るつもりだが、いまだ捕獲するにいたっていない。

 

九州は日南海岸・油津を出たあたりで、スクリュウに異物が捲きついたことがあった。

走るに支障がなかったから、そのまま種子島まで走って、翌朝もそのまま港から出たところ、やはり異物はくっ付いているようで気持ちが悪い。

で、めんどうだが、潜って、異物が付いているのかどうか確かめることになったが、

「このあたりは、フカが居そうだなぁ〜」と小声で、わたし。

いざ、潜ってみようと、構えていたヨシ坊に聞こえて、彼の腰が砕けた。

ここで潜るのは嫌だという。

で、せんかたなしに、また、港に引き返し、ぜったいにフカが居そうにないあたりに艇を止めた。

ヨシ坊はゲフッ！ゲフッ！と、なにか胃から戻しそうな気配。

「どうしたのや」と、わたし。

「はい、わたし、緊張すると、こうなります」と、ヨシ坊。

「ここにもフカが…、」と、言いかけていたが、緊張に免じて言葉を呑んだ。

で、異物が見つかり、目出度く取り除くことを得た。

 

水中の状況をどの程度知っているか思い出しても、せいぜいこんなところか。

若い頃、アワビやサザエを幾つか潜って捕ったことがあるが、せいぜい背丈程度の深さであったろうと思う。

これじゃ水中のこと、なぁ〜んも、知らないのと同じだ。

だが、釣り竿を握ると、そうではない。

イメージが俄然湧いて、海底の様子が手にとるように脳裏に浮かぶ。

それが正しかろうと、間違っていようと、そんなことはどうでもよろしい。釣りは、現実の海で釣るのではない。イメージ海で釣るのである。

多くの場合、現実の海と、イメージ海と、そう差があるわけではない。

それに、経験を重ねるつどに、イメージは現実に近づき、現実もまたイメージに寄り添うようになる。

わたしは、片想いの想い入れがきついから、逃げられてばかり。要するに、あまり釣り上手とは言えない。