点描 4 ワラの杖
「なんとかしてくれ、立ったら
「えっ！どうなってますの？」とヨシ○。
ヨシ○が、波平をたずねて職場へやってきた。
「おいや、もうしばらくしたら、僕は廃人になってまう」とわたし。
「それって、ストレスのせいやないでしょう。どこかおかしいのとちゃいます？」とヨシ○。
「ストレスやないか！休みの日に、海へ出られんやないか。朝から酒や、ストレスのせいや」
とわたし。
昨日から、どことなく体調がおかしい。
急に左右を向いたり、立ったり座ったりすると、地球が回る。
四六時中左鼻腔が痒く、クシャミ連発で、鼻水タラタラ。
心なしか熱もありそう。後頭部が時にキリッとする。
艇がもうすぐ仕上がるらしい。
“何日に”とは、ヨシ○は絶対に言わん。
何事につけても肝心なことは約束しきらんことが、はたまた売り値を、客にそう易々とは示さんことが、営業のコツと心得えているらしい。
客の目を窺って、契約条件を少しでも有利にしたいとの魂胆が見え見えである。
その分、腕利きの営業マンであるわけだが、その分、客は疲れる。
わたしは、もう、あきらめ切っておる。
わたしは、ヨシ○に振り回されるシバキ独楽（コマ）みたいなものだ。
なんでここまできて、わたしを、窺うような目でみるのか、と、彼の営業魂に恐れおののいている。
その、まさに壊れかけんとする、わたしの薄ガラスの心臓に、
わが家のかみさんは、
「どうせ治るのは、夏過ぎくらいになるんじゃない」と言う。
「どうせ、すぐ、またどこかが悪くなるのでしょう」とも言う。
哀しいことに、わたしも、深層心理的には、そう思う。
ヨシ○もあてにはできぬワラの杖 隠居 波平