船頭は短気　　周参見カツオ（３）

 

５月１０日・１１日・１２日、は、２泊３日の日程で周参見沖へカツオ釣行。

以下はその記録の断片。

 

出発前の８・９日は温暖前線・寒冷戦線が相次いで通過し、記録的な大雨が降る悪天候。

１０日朝方までは雨が残り、その後、徐々に天候回復との予報。

夜明けと同時に出港したかったが天候回復を待つ意味から、出港を９時まで遅らせた。

９時にしたのには、他に二つの意味がある。

１．周参見沖へ一気に走りたいが、外洋は未だ波が高いだろうから、初日は淡路島東浦翼港に仮泊し、二日目の明日、周参見へ向かおうと決めたこと。

２．ついては、初日、「鹿の瀬」で真鯛を釣ることにするが、１０時半が明石海峡潮止まりだ。５番ブイ周辺では“潮止まり時”に大物が上がっている。で、逆算し、播磨マリーナ出港を９時としたこと。

 

わたし、生来短気な男。難儀な性格。

約束した時間に遅れて平気な人は、苦手な性質。

大昔、未だ独身で、恋心旺盛だったころ、デイト約束もしたけれど、５分と遅れた女性を待ったことがない。むこうの方に急ぎ来る彼女の姿が見えていても、腹の中が煮え繰りかえっていてはもう駄目。ほっぱかしてわたし帰ってしまった。

と、

約束の９時になっても、同行する約束の、義弟チカどんとその友人浜ちゃんが来ない。

なんちゅうこっちゃ！

３分待っても５分待っても来ない。

だがしかし、わたしも大人になって、ジイチャンになって、たいへん穏やかになった。

だんだん腹は立ってきたけれど、ほっぱかすことなく待っていた。

と、

チカどんから携帯電話があり、バイパスで事故車が道をふさいでいるとのこと。渋滞に巻き込まれて動けないという。

何処にいるのかを問うと、姫路のまだ西に居るとの返事。

なんということだ！

それなら、事故に巻き込まれず、まっすぐ来たにしても、９時にマリーナ到着がやっとじゃないか。

わたしは、約束の時間から逆算し、かかる不足の事態にも対応すべく、今朝はいつもの２倍半の所要時間を用意して自宅を発った。

通常、自宅からマリーナまではほぼ４０分。が、しかし、約束した時間を厳守するからは、充分な時間的余裕をと考え、２時間前に自宅を発った。比して、彼らは、ギリギリの時間で発っとる。けしからん！

 

「魚釣りの約束時間をなんとおもっているのや！時間を守らんでどうする！まだそんな所に居るようでは、朝の潮に間に合わん、もう昼からの潮にするしかないから、ゆっくり来い！」と、叱り声で応答。

と、

詫びいれたつもりが、いきなり、叱られて、チカどん、むかっ！ときたらしい。

「そんなこと言うても、事故で渋滞や、しゃあないやないか！」

 

もう一人の同行者、浜ちゃんもその渋滞のなかだろう。

やんぬるかな、

艇はもうすっかり出港準備を終えている。エンジンはもうアイドリングで十二分に温まっている。

自分ひとり、力んでいるのがバカバカしく、用意の焼酎を矢継ぎ早に紙コップに注ぎ、２杯ばかりガブ飲みした。

水みたいな味。うまくない。

 

二人が到着し、出港できたのは、１１時前である。

この間に焼酎をさらに飲み重ね、わたし、すっかり酔っ払っていた。急ぎ駆け込んだチカどんに、なにかまたきついこと言ったに違いないが、忘れた。

 

播磨マリーナを出港し、天川を下り、播磨灘へ出る。

波がある。わたしは酔っ払っている。波の中を鹿の瀬へ向かう。

波はますます高くなる。

酔いが回って、諸事めんどくさくなっている。

操船をチカどんに任せ、キャビンへ入って寝てしまった。

 

あまりの艇のゆれに目がさめて、外を見ると艇はほぼ「鹿の瀬」の上に来ている。視界が悪く、すぐ近くに見えるはずの５番ブイが見えない。

チカどんは操縦席で緊張し、大波をにらんでいる。

３人とも救命胴衣を着ける。

とても釣りできる状況じゃない。とりあえず一番近い港へ避難することにした。淡路島西浦の江井漁港。

 

これが、今回周参見沖カツオ釣りの幕開けであった。