軍艦旗たなびく 隠岐海戦5
浜田漁港・市場内食堂の「サバ定食・700円」は圧巻だった。大きなマサバの半身が塩焼き姿でドテェ〜と皿に寝ておった。ゆりどんと波平二人が、1尾を二枚におろした左右身を食った勘定になる。わたしのサバには中骨は付いてなかった。ゆりのに付いていた。比較検討するに、左身を波平が、右身をゆりが食ったことになる。
サバも大きかったが、飯の量が半端じゃなかった。3分1しか食いきれなかった。ゆりは全部食った。ただし、食いすぎて、前かがみになるのが辛そうであった。
浜田漁港に入る直前にトビウオが飛ぶのを見た。
流れ藻が多い。藻の塊にカツオ鳥が羽を休めていた。
沖から見る山並みは凸凹がはっきりしている。山が険しいのであろう。
切り立った山々の頂上付近には、何機もの風力発電の風車が回っていた。とてつもなくでっかい風車である。軽々と回っていた。
波は、暫時高まったり、あるいは凪いだりした。
海図でみると、のっぺりした海岸線である。が、実際には、大小の島が散在し、水深も深く、あるいは浅く、一様でない。
水深50・60メートルまでの線は、大謀網(大規模定置網=マグロなどが入る)設置の可能性がある。油断していると、網にとらまってしまう。二度ばかりとらまりそうになった。敷設箇所には浮き球が並び浮いているが、波影に隠れ、直前に近づくまではそれとわからない。レーダーのレンジを500メートルまで落とし、前方海面を探り照射しつつ進むが、浮き球はレーダーに反映しにくく、発見が遅れる。
対策は、できるだけ岸から沖へ離れ、定置網が設置できない沖まで艇を沖出しして、航行する。われわれは、岸から5マイル〜10マイルもの沖を航行した。定置網を避けることもさることながら、潮目の海面に集まる浮遊物を避けたのである。結果、潮目を遠く離れて航行することになったわけだ。潮目は幾筋もあった。避けきれるものではない。だが、瀬戸内海のゴミ海域と比べると、格段にきれいな海である。潮の色は黒潮のものだ。対馬暖流の中を航行したのである。水温は常時20度を超えていた。
島根の出雲大社に近づきつつあった。
GPS検索で、15マイルほどにまで近づいて、やっと日御崎灯台設置の山容が浮かび出た。
10マイル、5マイルと近づく。3マイルほどにまで近づいても、日御崎灯台のある山(高尾山)が、陸から離れた島のようにしか見えなかった。
日御崎灯台沖5マイルを通過。二日目の停泊地・恵曇港(えとも・
日御崎を視界におさめ得た頃から、頻繁に二郎ちゃんから携帯電話が入った。
氏は、恵曇港から「はまちどり」に上船し、隠岐までの往復を、われわれと同船する予定。
連絡は、今朝、神戸を車で発ち、松江に着いたとのこと。これから恵曇へ向かうとのこと、恵曇に付き宿へ入ったとのこと。貴兄らは、恵曇入港後我が宿へ飯を食いに来いとのこと。ご馳走をどっさり用意し、待っておるとのこと。
「了解!そのまえに、港口の外で、少し竿出してみたいのやけどエエかな?」とわたし。
「どうぞどうぞ、食事は6時半から、どうぞどうぞ」と二郎氏。
6時半までの限られた自由時間。竿を数度振ったらもうおしまい。せわしいったらありゃしない。大急ぎで竿を出し、パッパッと釣って竿を納めた。
30cmほどの真鯛1尾、同大のウマズラハギ1尾、同大のナゴヤフグ1尾。
出港以来のしきたりだ、艇尾に日の丸の旗を掲げる。パソコンを起動し、軍艦マーチ放送の準備。用意整ったところで、静々入港。拡声器いっぱいに軍艦マーチを奏でながら…。
同港には、二郎ちゃんの知人が住まっておられて公的要職にあるとのことだった。夕食にはそのお方も同席され、いろいろお話を伺う機会を得た。
要職氏の話では、「はまちどり」入港の際、漁協事務所は、右翼団体が来襲したと錯覚し、右往左往したとのことである。
で、氏は、「あの船は大丈夫。右翼じゃない」と、これを鎮めるのに大変だったとか。
先日、竹島を、実効支配しようと右翼団体がやってきて、それなりに大変だったらしく、われわれはこれと間違われたらしい。
実は、艇には、まだ、日章旗を掲げたままであった。
ご馳走の山を前にしてこの竹島騒ぎのあったことを知り、わたしたちは、小さくなって恐縮した。
二郎ちゃんを加えたゆりどんと波平の三人、“決して右翼・左翼など、肝っ玉ある者じゃない”と、要職氏に釈明これ勤めたことであった。
それにしても、自国国旗を見て肝をつぶすなんぞは、なさけないかぎりである。
こんなことでどうする!
わが国の将来が危ぶまれるじゃあ〜りませんか!
わっしゃ、明日、隠岐の浦郷へ入港の際は、朝日新聞社旗、いや間違った、軍艦旗を掲げ、「君が代行進曲」を高らかに奏でながら、入ったる!
と、酔っ払って、啖呵切ったような気がするが、はて、どうだったか定かでない。