飛べるのか?
わが家は、つい先頃リホーム工事を終えたばかりだが、工事の足場が外されるのを待ちかねたようにツバメがやって来て、玄関ひさしのど真ん中に巣を造った、
巣が出来上がるのと、タマゴを生むのと、どちらが先だったか知らぬが、気が付いた時はタマゴが四つ。
それらが全部孵って、先週ころから、ちいさなクチバシが三つ見える。
四つのタマゴだったはず。三つはおかしい。
と、思っていたら、やはり四つ孵っていた。
やれやれと思う間もなく、そのうちの一羽が巣から転落した。
すぐ気が付いて、キャタツに登り、巣へ戻したが、翌日、また落ちた。
巣は玄関の真上である。われわれ夫婦が出入りする都度、頭の上で、ヒナたちが口を開けて大騒ぎをする。その騒ぎに気を取られると、下に落ちたヒナを踏んでしまう。巣の真下あたりには新聞紙を敷いていて、毎日フンで汚れたのを、あたらしい新聞紙と取り替える。昨日は、取り替える時、新聞紙がめくれた裏側に落ちたヒナがすくんでいた。
今日は、朝一番に、わたしが落ちたヒナを見つけた。大声でかみさんを呼び、彼女の手で、ヒナを巣へ戻させた。わたしはもっぱらキャタツを下で支える役。登るのはかみさん。
ヒナはまことに小さい。摘むとつぶれるような気がする。こういうのはかみさんの役である。
二度三度と落下事故は続き、今日は、ほぼ一時間ごとに落下する。
どうやら、落ちるのは同じヒナのよう。落とされ、落とされ、体力が消耗し、息絶え絶えのように思われた。
かみさんは、落ちヒナを巣へ戻すのをあきらめた。
巣に似せた擬似巣を造り、落ちヒナを寝かせ、爪楊枝の背にメダカの餌を付けて口へ押し込んだ。プロポリスも少し口へ押し込んだ。ヒナは小さい身体を大仰にあえがせている。
日が落ち、暗くなりかけた頃、また、かみさんが、玄関先で悲鳴を上げた。
「ヒヤ〜!また落ちとる!」
二羽目が落ちた。
わたしがキャタツを下から支え、かみさんがこれによじ登り、そのヒナを巣へ戻す。
巣では、親ツバメが二羽とも巣に帰っていて、大騒ぎの最中であった。
かみさんは、親つばめを叱りつつ、ヒナを戻した。
パッと一度は飛び立った親ツバメだったが、ヒナが戻るや否や、まだかみさんの手が巣にあるのに、舞い戻った。
ツバメの鳴き声は、チイチイとも聴こえるし、ジイジイとも聴こえる。
母ツバメ、父ツバメの、言い争う声だ。
「あなたがいけないのよ!子供が落ちないように観てやってねって、いったでしょう!」
「おまえが、ボヤッとしとるから、あかんのやないけぇ〜」
「落ちてばっかりで、空、飛べるのか?」と、これは、わたし。