時化（しけ）　　

 

今日はひどい時化で難儀した。播磨灘「鹿の瀬」周辺はいっとき３メートルを超える波があって、とてもじゃないが釣りにならなかった。

写真のメジロは時化始めたとたんにヒット。これで竿を納めました。６８．５センチ。

 

妹の主人○明氏が同船。昼前からの釣り行きだった。

「鹿の瀬」のポイントに着いたのは昼１２時前。この頃は凪ぎとは言えぬまでも、まだ釣りが出来、走れる状況だった。だが、こんな時間からの釣りはダメだなぁ〜、気合がうわずって、腰が定まらない。大潮日。潮が川のように流れ、１２０号のオモリを斜に引きずりつつの呑ませ釣り。こりゃかなわんと、わたしは、もっぱらジギング釣りに切り替えた。

 

そうこうする間に、暗雲が空一面を覆いはじめ、変な風が吹き始めたなと思ったときはもう遅い。突風が吹き、波が牙を剥き、艇に噛み付いた。

 

救命胴衣を着けようと、○明氏が、キャビンに救命胴衣を取りに入って、高波の衝撃で転倒。眉間がパクッと割れて、鮮血がドドッツと出た。

わたしは操船中で動きがとれない。３メートルを超える牙剥いた高波の中だ。下手に横波を受けると艇が横転する。沈没する。わたし、とっさに平気を装うことにした。

「ありゃ〜血が少し出ましたなぁ〜（実際は大いに出たのだったが）、大丈夫･大丈夫、ほら、もう血は止まったみたい（実際はダラダラ出ていた）」

瞬間的に○明氏は脳貧血を起こしたようだ。何が起きたか不思議そうな顔でボヤ〜としている。血で真っ赤になった両手を眺めている。

「なぁ〜に、たいした傷じゃない。そこにしばらく横になってじっとしていましょう」と、わたし。

たいしたことない、たいしたことないと、無責任な言い草ではある。が、わたし、瞬時も波から目が離せなかった。スッゲ〜時化になってきた。

 

…と、○明氏、横にじっとしておれない様子。変だなぁ〜と思ってみていたら船酔いが始まったようだ。もう、どうにもならん難儀な面差し。死相現われ、亡霊か幽霊みたい。ヨレヨレになっちゃった。

時化はひどくなるばかり。わたし、彼の手元へ、バケツを投げた。操船しながらの片手仕事。波の形が三角。明石の鹿の瀬の本格的時化は、往々にして、こうなる。ステアリングから瞬時も手が離せない。

 

この状態で丸々２時間。

ようやく播磨マリーナ桟橋へたどり着いた時には、○明氏、もうほとんど死んでいた。

ほうほうの体で桟橋へ転げ出て、あぶなっかしい足取りで上陸。そのままマリーナのお手洗いへ直行。いつまで待っても出てこない。

水洗便座に頭突っ込んで、そのまま下水管へ吸い込まれてしまったのでは。

だいぶたって、彼、フゥ〜と、出てきて、上架した艇に這い上がりました。

後片付けしましょうか？だって！！

なんと、責任感旺盛なこと。

あとから追っ掛けてマリーナの女子事務員がやって来た、

「これお使いください」と、救急セットの傷の消毒薬と絆創膏を差し出した。

 

彼、帰宅後も、頭がガンガンするそうです。大丈夫かいな？

 

メジロのその後ですか？

今、かみさんが半身をサシミに造っり終えたところ。

あとの半身は○明氏が持ち帰りました。きっと、彼も、ガンガン頭をかかえながら、女房にサシミを造らせ、お膳に責任感と共に向かっておることでしょうよ。