◎色ウン枚　　

数日前に夢の中のテレビで観た男性二人連れの営業マンが、わが家へやって来て、盛んにある品物を買うように勧めた。

「わたしお二人を存じ上げています。先日、テレビに出ておられましたね」と、わたし。

二人は返事もせず、買え買えと言う。

買ってもかまわんが、それはたちどころに必要でもなんでもなく、それがなくて不便しているわけでもない。

半分目が覚めて、

それにしても、夢の中に出てきたテレビの人に、また別の日の夢の中で会うなんて、おもろいこっちゃと思い、よォーく、二人を見ておこうと二人を探すがもう見当たらない。

全部目が覚めて、

ひょっとして、一昨日食った回転鮨（スシ）のせいではなかろうかと思い当たった。

あれは皿に二つずつ乗っておった。

回転ベルトが席の横に設置されていて、四六時中休む間なくゴトゴト動くその上に、いろいろ色分けされた皿が、二つずつ鮨を乗せていた。

食ってくれ！食ってくれ！と、ベルトは壁奥から鮨皿を繰り出すが、皿それ自体は否応無しに乗せられていて、そのときは感じなかったが、皿を、単純作業のローテーのなかで働かざるを得ない今の自分に見たてていたのではなかったろうか。

店内には子供連れの家族が楽しげにしていた。

わたしたちの隣席は若い男女の二人連れ。

席横から好きな皿を取ればよいものを、案内嬢を席へ呼び、

ことさらに別の皿を特注していた。出てくるのをさりげなく観察していたが、ベルト上に動く皿とおなじ皿。同じ種の鮨。壁奥で、ベルトの上からその皿を外し、席へ届けたのであろうと思われた。

わたしは、急に、もう食べたくなくなった。皿が、席横を絶え間なく運ばれ行くのを観るのが辛くなった。

「パクパク食って、赤ダシ二杯いただいたら、おなかで鮨がふくらんだみたい」とわたし。

連れの二郎ちゃんも、腹がくちたような様子。彼は、この日、某氏の講演会に出席した後、わたしと待ち合わせて、この店へ入った。定年退職後の二度目の勤めも既に終え、悠々自適の毎日である。

「毎日お忙しいようですね」とわたし。

「うん、あちこちに、出勤簿が置いてありましてね。ハンコ押して回ります」と彼。

「わたしの今の勤め先だけど、節約ムードやリストラ志向が強まる一方でね、面白くないです。同僚等も皆年寄りで同年代。好ましい環境じゃないなぁ〜」とわたし。

二郎ちゃんとわたし波平の二人、ボソボソ世の中の不具合を付き合わせ、

「食ったから、もう、出ましょうか」と席を立った。

案内嬢が、急ぎやってきて、卓上の皿の数を数え、

「○×色が５枚、☆色ウン枚、◎色ウン枚、◇色…枚」と高い声で念押しし、

「以上で、よろしかったですか？」と、言った。

ハイよろし　ハイよろしとて　師走かな　　　波平