「命」リリース　　

 

横浜の先輩アルビン乗り某氏から、わたしの質問へのメール回答があった。

わたし、遠慮会釈無いぶちあけた不安を氏へぶっつけたのだった。

あるいは心証を害されたのではと恐れていたが、おおらかなお人柄に救われた感がある。ありがたい。わたし感激しつつ拝読した。

 

なかに、

「何か不測のアクシデントが発生した時には、案外簡単に死出の旅路につきたがるようにお見受けいたしました。いさぎよいですね」

という、言葉が添えてあった。

 

海上での危機に対するに、

氏の場合は、現代科学の粋を、ほとんど全ての装備を、艇に備えられた。艇が、完璧に仕上がっている。

わたしの場合は、そこまで用意する経済的余裕が無い。不安を積んでの航海だ。

 

氏は、思うに、最も重要な“通信手段・艇の位置検索”に関してであったので、このキツイ言葉を投げかけて、わたしに注意喚起をうながそうとされたのであろう。

ありがたいことだ。

真摯に受け止めて、わたし、今一度、装備品を見直そうと思う。

 

と、思いつつ、

やはり、わたしは、危険同居でがまんしようかと思ったりする。氏並みの充実装備を整えようとすると、いろいろ困ったことが生じてくる。

 

１．物理的に言って、

搭載荷物が増えすぎ、過載になり、艇に負担がかかりすぎる。

氏の場合は、ただひたすら航海を楽しまれたのだったが、わたしの場合は、航海に加えて、魚釣りを楽しむ・研究する、という課題がある。実に、魚釣り関係の荷物がただならぬわけだ。選んで積むが、それでもドッサリある。同じ充実装備なら、まずこちらからでありたいということがある。

 

２．次に、経済的に破綻する。

陸での生活がしっかりあって、はじめて、海へも出ることが可能なわけだ。

わたしの場合、陸での生活が、極めて脆弱である。

陸上生活での装備品が、艇搭載済みの装備品に比し、今、現状でさえ、劣っている。

例えば、自宅トイレのウオッシュレットに接続パイプからの水漏れがあって、トイレ使用のつど不快だ。耐え難く、つい最近、新機に取り替えたが、１０万円近く掛かった。

例えば、いつも観ているテレビは、画面が小さく図体がデッカイ３０年も昔の骨董品だ。

 

「…、案外簡単に死出の旅路に…。いさぎよいですね」

いやまったく！

危ない、危ない、命がけの綱割り。

氏は、海のことを、十二分に知っているベテランだ。氏なりに、可能な限りの装備を整え、日本一周を完遂された。見事なものだ。

わたしは、氏にお教えを請いながら、わたしなりに可能な限りの対応策を取り“日本列島魚釣り周航の旅”に挑戦する。

ただし、６：４で、魚釣りに比重を置きながら。

 

魚釣りは、魚の命を断つ。その分、釣り人も命を減らす。

この基本は変えようがないものだ。

だが、この度は、釣った魚のほとんどをリリースすることになるだろう。

だって、釣った魚も、その日わたしが食う分以外は不要だから。

その分、あるいは、

わたしという釣り人は、「命」リリースの恩恵にあやかれるかもしれぬ。

 

氏の、温かい目が、見えるような心地がする。