ミュージック　　

 

歳取ると、何事も、斜に、斜に見る傾向が強まるようだ。

人生を、明るく、おおらかに、成功裏に、暮らし来たったお方は、そうでもあるまいが、わたしごときイジケムードのなかで、“もう嫌だ、これ以上ごまかされたくない”と、ただひたすらそればかり思いつめてきたジジイは、結果、ろくな人格を得ておらん。たどり着いておらん。

 

犬を飼っているが、せめて自分の飼い犬くらいは、おおらかに育てたいと、これは昔からずーと、そういう思いで、代々、犬らに接してきた。

なにせ、わたし、犬を叱ったこと、ほとんどない。

訓練とか、しつけとかは、まったくやったことがない。

ぜんぜんそういうことは、ほったらかしで、ただひたすら可愛がり、美味い物を食わせて、好き勝手させているが、ここが不思議なことながら、犬らはいつのまにかしっかり自立しており。なんら曲がることなく、真正面から彼らなりの人生（？）を歩んでおる。おっさんのような、物事を斜に見るイヤな目つきは、彼らには無い。

 

もし、わたしに、この、斜に見る、…思い、…考える、嫌味な傾向を時に自省することがあったとすれば、それは我が愛犬らの力によるものである。犬らの真正面からの目に接することが、どれだけわたしにとって力になり得たことか。

 

いつぞやからは、犬は２匹づつ飼っている。好んでそうしたわけではない。拾ってきたり、迷い込んだりしたのである。なかにはペットショップから買ってきたのも居た。売れ残りを見かねて連れてきたのである。

長年尻尾を垂れ、追われ、逃げ惑った迷い犬は、散歩に連れ出すと、道を行くに、側溝のミゾの中へ入りたがって難儀した。わたしはミゾ沿いに歩き、犬はミゾ中を歩くのである。でも、この習性はほどなく止んで、道をはしゃぎながら行くようになった。ほんとうは、ミゾの中なんて歩きたくなかったわけだ。目つきも真正面からのものになり、生来の賢さが輝き出て、どれだけわたしを楽しませたか計り難い。

 

今は、大と小の２匹。ダイチ（大地）と、ショウタ（翔太）だ。

シーズー犬。室内犬だ。

例によって、なんら、しつけをしないから、家の中は、かれらのオモチャでごったがえしている。玄関の履物は、いつのまにか部屋中に散らばっているし、ショウタはまだ若く、四六時中部屋内を駆け回っている。不意のお客さんがこられたりしたら、ガラクタを片付けるのが大変だ。

ダイチはもう歳である。いつも大きなイビキをかいて寝ている。今も、彼の心地良さそうなイビキが聞こえる。当サイト閲覧子はお笑いかもわからんが、これ、わたしにとって誠に心休まるムード・ミュージック。

部屋が震えるような大イビキ。音が大きすぎるミュージック。

わたし、ぜんぜんこれが気にならん。