錆(さ)　び　　　　　２１０４２０

私は極端な方角音痴であってたびたび世間を渡り誤る。

先日も、帰路、近道のつもりで入り込んだ県道のわき道が、思わぬ方向へカーブしていて、たちまち方向がわからなくなった。自宅へ電話すると、かみさんが「じょうだんでしょう。そこから見える喫茶店の前に行ってごらん」と言う。行ってみると、なぁんだこの店、わが家近くの店だった。

甲地・乙地の前後関係・遠近関係が判然と思い描けず、広大な空白地帯が常にあって、それを越える術(すべ)がわからない。

東西南北と前後左右がダブり重なって、悩むほどにいよいよ分けがわからなくなる。

問題は、人生行路においても又同然であることだ。順風中に居るのか逆風になっているのかの判断がなってない。ために、とんでもない所に押し込められて天を仰いだこと実に再々である。

そんなことで、あんた海に出て大丈夫？　

大丈夫、大丈夫。

海は常に広々している。街の路地を行くように角角をこせこせ曲がる必要はない。遠くの山並みをぼんやり見ながら、まっすぐにボートを走らせばよい。

ただしかし、日本列島の地図を眺めるに、ギザギザ凸凹がやたら多い。まっすぐ真っ直ぐだけでは、とてもこのセコイ列島は周航できそうにない。迷わず周航してまわるには、やはり角角の曲がりに、適切に対応することが必要である。

ある大金持ちが自分の豪華艇で日本列島周航の旅を思い立ち、周航中に停泊・給油すべき漁港を、自家用飛行機で事前に空から検分したと某雑誌に出ていた。これなら道に迷うまい。きっとこの人は、自家用飛行機を飛ばす以前に自家用車で事前調査し、その前に電車汽車で、またまたその前には卓上に地図を広げて調べまくったに相違ない。

私は、このような金も根気もないから、いざ事あれば難破沈没するのみである。

“日本列島とはたったこれだけのものだったか”と見定めたい。

これが当面の目標である。

無鉄砲が武器である。ただ、この武器、少々さび付いている。随分昔から列島周航を思い描いてきた。そのつど“いつかやったる”と決心をかためつつ、未だ実のある調査はなにもしていない。

夢見て外洋艇を買った。「はまちどり」である。

今日、艇燃料の軽油購入につき当局から「軽油引取税免税証」の交付を受けた。

鈍刀の錆び、はたして落とし得るや否や。その成否、未だし３・７といったところ。

頓挫７が現相場である。