正  気   210510

 

一点豪華主義とは、ふだんは質素な生活ながら、ある一点に関しては贅沢を惜しまない華麗・甘美な生活様式のことだと承知していたが、このたび中古ながら豪華艇を買ってみて、これが予想に反し、しっかりマイナス面を含有する様式であることがわかった。

 

バランス的に考えて一点が豪華なら、他のどこかにその分無理が生ずるのは当然である。

また、ここがシャクなのだが、ピュアな形で一点豪華を完遂すること自体が、まず貧乏人には無理なのであった。

 

少し詳しく検証してみよう。

問題は以下の2点かと思われる。

1.質素と豪華との境目が判然としないこと。

  境目が極めて流動的であって、豪華側からのプレッシャーが常に優勢である。油断するとついつい我を忘れることになりかねない。これ、消費者金融が喜びそうな心地か。バクチと同根。

2.金持ちの真似は疲れる。

  豪華生活はズブの素人である。擬似(金持ち物真似)生活はまるで借りてきた猫みたいに尻が落ち着かない。結果的に、再々貧乏を自覚しなおすはめになる。

(豪華艇に乗ってはみたものの、手元の釣り道具が貧弱(ひんじゃく)に見えて、情けなくてしょうがない。この際、一気に買い換えたいが、もう家計が許せる限度を越えている。豪華艇購入以前は、これら道具のことで、今感じるような情けない気持になったことはなかった)

 

ただし、ここに救いがないわけじゃない。

わたしは生来(せいらい)夢見る性質(たち)のおっさんである。

(いや)なことは思い出さない訓練を積んで来た。

で、実態はぜんぜん落ち込んでなくて、四六時中嬉しくて嬉しくてしょうがない。

時々、フッと正気に返ることがあって、それが上述の繰言(くりごと)を生んだわけだが、わたしの場合、正気になんぞ滅多(めった)に返らないのであるから、さして(あん)ずることもない。