逆さ釣り

 

誰かを釣りに誘った時には、わたしがいつも使っている仕掛けを使うよう勧めている。いろいろ試してみて現在最上と思える仕掛けであって、もちろん実績をふまえたものだ。徹底する意味もあって、竿ごとお渡しする場合が多い。

 

で、わたし用には、別の竿を取り出して、新たに仕掛けをこしらえることになるが、問題はここからである。

いつもと同じ仕掛けをこしらえるつもりが、欲もあってか、日ごろの思い（研究）を試したくなり、自然自然に少し工夫を加えた仕掛けを造ることになる。

 

私としては、同行者に渡した仕掛けの方が、釣果は多いはずだと思っている。そう信ずればこそ、勧めた仕掛けである。

しかし、釣果は、大概の場合、新たに造った仕掛けを使った私の方が多い。

これは困る。見方によっては、釣れない方の古い仕掛けを同行者に押し付けておいて、私だけが新たな良い仕掛けを作り、悦に入っているように受け取られかねない。

 

あまり釣果に差が出ると、私はうろたえてしまって、釣れても少しもうれしくなくなる。大あわてで同行者にも同じ仕掛けを造るが、いったん芽生えた気まずさはぬぐうべくもない。

 

こういうことが再々だから、いつもの仕掛けは自分で使って、同行者には、更に工夫を加えた新たな仕掛けを使ってもらえばよかろう、と、理屈では確かにそうなるが、新たな工夫が成功するとわかっておれば、すでに日ごろの自分の釣りに取り入れておる。

ふだん使っている仕掛けはそれなりに最善であると信じればこそ私は使っていたことに決してウソ・イツワリはござらん。

 

思えば、私の人生は、すべてが上記仕掛け造りのようなチグハグなものであった。良かれと思ってしたこと、あるいは、しなかったことが、逆になったこと実に再々である。

 

あぁ、今日もまた、逆さ釣りしてしもうた。