結　論

 

体育館勤務だ。土日は忙しく火曜日が公休日である。公休日というも利用者の都合で開館することもある。また、休むといっても、実際は早朝から海へ釣りに出るから、身体は休めてなくて疲れは勤務の日よりきついが、それはそれで休んだ気がする。

 

かみさんの言うところによると、
公休日前夜、わたしは決まって準備体操をするらしい。しかし、当のわたしにはまるっきりその自覚がない。ただ自覚的に組んだ波平体操というのはあって、見た目はヘッピリ腰ながら、相撲の仕切り直しに似た、立ったりしゃがんだりの繰り返しと、大物を掛けた場合に備えての腕力強化ダンベル体操だ。釣りのしぐさを取り入れてあるから極めて即効性に富んでおり、知らず知らずの間に釣り行きの前夜、試みることになる。

 

腕力強化は二キロのダンベル二つを振り回すが、別に四キロのも持っており、大物釣りの夢絶え難き時には四キロに挑戦する。
今年、五月中旬ごろ、さあトッカアジ（大アジ）の連釣りシーズン突入かと思ったから、四キロをブンブン振り回したら、翌日以後腕の筋がのびへなって空腕があがらなくなった。最近ようやくそのヘナリ（痛み）が取れ、二キロの上げ下げができるようなったばかりだ。

 

明日は金曜日ながら年次休暇を取ってある。三日前の火曜公休日は臨時出勤したから、それ以来、海へ出たくてもう身体中がむずむずする。
真夏の大釣りシーズンを眼前に、二キロごとき鍛錬では頼りない。急きょ明日の釣り行きに備え、四キロを振り回そうと思ったとたん、かみさんのあきれ顔が思い浮かんだ。なるほど、わたしには釣り行き前夜に突然準備体操を始めたくなる性癖があったようだ。
ひとつ大きく息を吸い込んで気持ちを落ち着かせ、気合を入れすぎて腕の筋をいためるといけないから、今晩は二キロで我慢する方が良さそうだと結論づけた。

 

＜そして当日金曜日の釣果＞
キス４０・グチ５・ガシラ３・テテカミ５・マダイ（３０センチ）１・マアジ０.
（今年のアジは怠け者である。どこかで道草食っているのだろう。まだ我がテリトリーにやって来ない）

ヒラメを釣ってやろうとキスに針を背負わせて放っていたら、針だけ上手に避けてキスを食いちぎるやつがいた。　お！どなたか知らぬが、なかなかやるじゃねぇか、と、新しい餌（キス）には前回食いちぎられた部位あたりに孫針を忍ばせた。そうすると食わん。知恵者じゃのうおまはんも。

水深４０メートル。アンカーを打っているが、風向きと潮の向きが逆で艇がフラフラして釣り辛かった。
奄美大島に昨夜から座って（停滞して）いる台風６号の余波があって怪しげな風が吹く。
ふと空を見上げると、雲が上下いく層にも分かれて右往左往していた。雲の切れ目から青空が見える。なんだかんだ言ったって、あの雲の上は真夏の青空なのだ。
実は、今日は記念すべき誕生日である。あぁ美しい、この空を記念に撮っておこう。わたしは写真機を真上に向けてシャッターを切った。